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第129話 桐生司の遅い一歩

Author: 花柳響
last update Petsa ng paglalathala: 2026-08-08 06:00:44

 朝の桐生邸は、音が少なかった。

 磨かれた廊下を歩く靴音も、食器の触れ合う音も、厚い絨毯と壁に吸われていく。窓の外では庭師が植え込みを整えていたが、ガラス越しでは鋏の音までは届かない。

 書斎には、昨夜から残った冷えた茶の匂いがあった。

 司は書斎の机に置かれた封筒を見ていた。

 昨夜、秘書に送ったメールの返信が、朝一番で届いていた。三年前の車両使用記録、桐生家の運転手の日報、当時のカード利用明細。どれも、いままで見ようと思えば見られたものだった。

 見なかった。

 それだけのことが、指先を重くした。

「司様。こちらが、ご依頼の資料です」

 秘書の柴田は、いつもと同じ声で言った。四十代半ばの男で、桐生家の事情に深入りしすぎない距離を知っている。だからこそ、机に資料を置く手つきも事務的だった。

「未央さんには」

「まだ何も。診療情報の開示には、ご本人の同意が必要です。こちらで用意できるのは、司様が同席された範囲の移動記録と、桐生側で支払った費用の控えまでです」

「分かって
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